タンブン(布施)
タイに旅行すると、早朝に托鉢(ピンダバーダ)している比丘や沙弥(僧と見習い僧)に小袋に分けた食べ物を差し上げている人々を見かけます。比丘や沙弥はしっかりと黄衣をまとい、小袋に分けた食べ物を鉢に入れる人の顔を見つめることなく、施物を受け取っていきます。
この比丘や沙弥に布施することは、タンブンの一つです。タンブンの「タン」の意味は「なす、行う、する」で、「ブン」はパーリ語(上座部仏教の聖典で使用されている言語)で「プンニャ」と言い、意味は「福・善・福徳、功徳」です。すなわち、「タンブン」とは、「福徳をなす、善を行う、功徳を積む(こと)」の意味になります。
仏教では、私たちは、自らが作った業(カルマ、行為の余力)によって、苦である地獄・餓鬼・畜生・修羅(阿修羅)・人・天の六つの世界(六道、六趣)の中で、生死を繰り返していると教えます。今、私たちがいるのが人界です。六道の中で、地獄が一番苦の多い世界で、順番に苦が少なくなり楽が多くなり、天界が一番楽の多い世界です。しかし、天界にも苦があります。修行者たちは、その苦の六道から解脱しようと修行をします。しかし、私たちは在家のままで、修行者の行う同じ修行を行うことができません。そこで、在家の人々は、この六道のなかでより楽の多い世界に生まれ変わろうと望みます。
また、仏教では、「善いことをすれば善い結果としての報い(善果・楽)があり、悪いことをすれば悪い結果として報い(悪果・苦)がある」と教えます。私たちはよい行いをすることによって、その結果としての報いによって、より楽の多い世界へ生まれ変わることができるのです。しかし、善い結果としての報いは、いつあらわれるか分かりません。来世でなく現世でもその善い報いはあらわれます。いずれにせよ、善い結果としての報いを求めてする善い行いが、福徳を積むこと、つまり、タンブンです。
福徳を積むための方法はいろいろとありますが、タイの人々が信奉する上座部仏教では、三福業、十福業としてまとめられています。今、その三つの項目からなる三福業を見てみますと、
@
|
布施をすること。
|
A
|
道徳や戒律を守ること。
|
B
|
瞑想によって心を向上させること。
|
となります。しかし、いつの間にか、タイ人の中でタンブンとは布施することを特に意味するようになりました。
布施とは、人に施しめぐむことです。布施は私たちの中にある執着を取り除き、物惜しみの心や思い上がりの心を捨てさせます。仏教では、私たちが執着することは苦の原因であると、教えています。
仏教では、仏陀や仏弟子への布施、寺やサンガ(教団)への布施を、善い行いの種を蒔いて功徳の収穫を得る田地という意味で福田(ふくでん)と呼んで、そこに布施することを勧めています。ですから、功徳を積むために、タイ人は仏陀や仏弟子、寺やサンガに布施することを好むのです。仮にタイ人のタンブンを分類するならば、次の五つに分類することができます。
- 祖先や亡くなった父母、おじおば、兄弟などの故人に追善供養するタンブン。
- 現世や来世に自分が幸せになるように行うタンブン。
- 憎しみあっていたが、亡くなってしまった人に行うタンブン。
- 供養をする人がいない霊に行うタンブン。
- 先生や両親等の尊敬する人に行うタンブン。
そのタンブンはいろいろな機会に行われます。
- 誕生日のタンブン。
- 結婚のタンブン。
- 葬式のタンブン。
- 新築のタンブン。
- 開業のタンブン。
- 仏教で重要な日のタンブン(たとえば、仏陀の降誕・成道・般涅槃を記念するウィサーカブーチャー、1,250人の覚りを開いている仏弟子が偶然に一堂に会したことを記念するマーカブーチャー、仏陀が初めて説法をした初転法輪を記念するアーサーンハブーチャー、等々)。
- 托鉢のタンブン。
- 入安居、出安居(三ヶ月間の雨期の定住に入る際と出る際)のタンブン。
- 新年のタンブン(ソンクラーン)、等々。
それらの機会に、比丘や沙弥に差し上げるものは、以下の十種類に分類されます。
@
|
食物。
|
A
|
水などの飲み物。
|
B
|
衣服の布。
|
C
|
運賃を含む移動への援助。
|
D
|
花輪や花。
|
E
|
線香や蝋燭。
|
F
|
石鹸等の身体を清潔にする衛生用品。
|
G
|
修行者に必要な寝具。
|
H
|
いすやベッドのような僧坊または比丘や沙弥の住まいにあるもの。
|
I
|
ろうそく、ランプ、電灯なのどの明かり。
|
さらに、伽藍の新築や改築、出安居に献上衣を比丘に差し上げるカティン、仏教で重要な日、新年などの際、寺やサンガにも布施が行われ、大きな儀式が行われます。
さて、私たちがよく見かけることができ、私たちが手軽に行えるタンブンは、托鉢のタンブンです。托鉢に回る時刻や托鉢の時のスタイルについては、地方によって多少の違いがあります。たとえば、田舎の方だと時刻は朝七時とか、托鉢に回るとき比丘が鐘をたたきながら回るとか・・・。
その朝の托鉢の時のタンブンのしかたについては、次回に・・・。
|